山に行くときには、何かに導かれているような気がします。予定を立てている段階から何か仕組まれているような気がしてならないのです、今回の山行も地図を買ったのは昨年のことでした、しかし実際に行くタイミングはすっかりはずされて雪の季節が来てしまいました。今年に入っても気持ちや世界が混乱している中、山なんかに行っている場合か?と心の隅では思ってはいるのですが、なんとなく「来ればいいじゃん」と言われているような気がして足が向いたわけです。

今回の山行は、巡礼という言葉がふと頭をよぎりました。まずは、頂上の鳥居を目指しての山登りからです、ご老人から小学生の集団までありとあらゆる人々がそこそこ厳しい登山道を上ってゆきます。子供たちも真剣な眼差しで岩をつかんで上ってゆきます。ゆっくりとした上昇気流のように全ての命が口を閉ざして頂上からの開放を目指しているかのようでした。さすがに頂上は多くの人たちの歓喜の声で満たされていて賑やかものでした。そんな頂上を越えて幾つかのピークを越えて行くと人は減り静かな空気に包まれてゆきました、霧もだいぶ出てきてさらに静けさに包まれてゆきました、さっきまでの厳しい山からザラザラした石ころの丸い山に変わってゆき、まるで大きな砂山を歩いている感じになってきました、霧の中に道は消えてゆくのですがその消えて行く先を見ながら淡々と足を進めてゆきます、自分自身の存在もほんの少し透明になってきているような感じがしてきました。

小屋につくと身を清めるためにビールではなく日本酒を一杯、一杯でも結構フラッと来るので高山はすごいです。

午前3時小屋では数名がゴソゴソし始めました、皆暗いうちから日の出を目指して登り始めるのです。自分もご多分に漏れずそそくさと準備をします、小屋を出ると満天の星空、昨日の夜にさんざん降っていた雨が嘘のようです、でもすぐに雲が上がってきて昨日のように全てを覆い尽くしてしまう前に登りたいというのが本音ですが、初めて来た山だし、かなり険しいということを考えると闇の中で行動するのは危険だな、ということで行けるところまでとりあえず登ってみることにしました。しばらくいくと一つ目のピーク、遠くの空がようやく紅くなり始めていますがライトがないと地面は見えません、目の前には真っ黒な巨大なシルエットがありそれが二つ目のピークであることはわかりましたが地図によればかなり険しい、小さいランプの幾つかも垂直に登っている感じです。まあ急ぐこともないし、眺めも良さそうなので足下が見えるぐらいまで休むことにしました。眼下には遠くに小さく街の灯や海の闇が見え、しばらくすると折り重なる山々の景色が徐々に見えてきました。明るくなるにつれ雲海が広がっているのも見えてきました、意外とすぐに雲の中に入ってしまいそうな天気だなと思いながら、しばらくボーっと景色を眺めていました。

手を離せば落ちて死ぬ、そんな岩にとりついて登っていきました。少しはクライミングの訓練もしているつもりですが吸い込まれるような谷底をみるとビビるわけで本能にまかせ必死にしがみついていくわけです、前に人がいるとなんとなく登り方がわかってしまうので、わざと少し間隔を開けて登ったりもするわけです。ジャラジャラと鎖をおいてゆっくり立てるところに出ると男性が待っていました、コースの印がついていなかったのです、「たぶんコッチですよ!」となんとなく登りやすそうな方を指さすと「先に行ってください」とのこと「ではお先!」と岩に手を伸ばして登っていきました。「大丈夫、道は続いてますよ!」と上から声をかけました。

気がつくとだいぶ雲が上がってきて回りも白くなってきました、まだ午前6時ぐらいなのにもう店じまいかよと思いながら登ってゆき、ようやく頂上へ到着。皆、証拠写真といって山頂の看板をもって撮影をおこたりません、自分は特に見せる人もいないので少しでも霧が晴れるのをしばらく待ちました、一瞬まわりがものすごく明るくなりましたが遠くが見えるほどでもありません、頂上の眺めはあきらめて下山開始です。正直登りより下りの方が怖いのですなぜなら下を見なくてはいけないから、どこに足をかけていいものやら、またしても勘を頼りに手探りならぬ足探りをしながら降りてゆくわけでした。

核心部を抜けるとだいぶ霧が濃くなり雨が落ちてきました、まあ岩場で雨にならずによかったと思いながら急な道を降りてゆきました、しばらくしてザーという本格的な雨になってきました、雨のせいか人がまったくいなくなりました。雪渓の際にはたいてい花畑が広がっていて、岩と岩の間には小さな白い花が一面に咲いています、霧にかこまれ幻想的な世界のなかに一人きりです、雨は水は人と自然の距離を縮めてくれる感じがします、間違いなく自然に対する感度は上がります、ですから雨の中を歩く楽しさを力説するのですが殆どの人に理解してもらえません、まず急ぐことをやめしばらく立ち止まるのです、ザーというホワイトノイズのむこうにチョロチョロと水が流れる音、チチと鳥のさえずり、土や草の香り、そしてうっすらと花の香り、素晴らしいと思いませんか。2時間ぐらい人にも合わず草原と雪渓と岩場を繰り返し繰り返しゆっくりと登ってきました、コルに出ると小屋の前で雨宿りをする人があふれていました。

コルを抜けまた長い坂道を下り出すと多くの人が雨の中を次々と登ってきました、巡礼の旅も終わり徐々に下界に近づいてきました。雨も上がり、さっきまでの雨は授かり物だったんだなと勝手に思いこみ、バスターミナルへの道を急ぎましたとさ。

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